多くの感動を与えてくれたドラマ【北の国から】作家・倉本 聡
「北の国から」のシナリオ案が固まってきた。内容は、妻と別れて小学生の息子と娘を連れて東京から生まれた故郷の富良野に戻り、元の生家である廃家に暮らし始める男の物語。初めは電気も水道もない。この3人が主人公だ。番組のスタートは1981年秋と決まる。1時間番組で24話で2年間。倉本 聡の書斎の張り紙に「人間を!」「やんちゃに!」「ボルテージ!」と大書してある。
一番大事なのが人間、つまり登場人物たちをしっかりと造形して、縦横に生き生きと動かしたい。全体の構成に大きな起承転結をつくる。さらに、一話ごとに起承転結をつくる。これが倉本 聡のドラマ作りのセオリーだ。主役の名は 黒板五郎。高校を出て集団就職で上京。しかし東京になじめず、結婚生活も破綻して、ふるさとの北の大地に根を下ろしして愚直に生き直そうとする。この男、自分の座標軸を持った骨のある奴だが、女癖も酒癖も決してよくないし、欠点が一杯ある。主役は格好悪い方が魅力的になる。
キャスティングが進み始めて、五郎役候補に「高倉 健・緒方 挙・中村雅俊・西田敏行・田中邦衛」が挙がった。一番情けないのは誰か!ということで満場一致で田中邦衛に決まった。 倉本 聡は言った「今までの田中邦衛さんを全部捨ててください」と依頼した。邦衛さんは唇をとんがらかして「そんならなんで俺に頼むんだ」と怒る。が、彼の黒板五郎は素晴らしかった。
純と蛍と名付た子役の2人はオーデションが始まった。純には10歳の吉岡秀隆、蛍には9歳の中嶋朋子が300人の応募者から選ばれた。吉岡はガッツのある元気な少年、中嶋は体力もなくて頼りない感じの少女だった。主役の役者3人の印象は「陰」である。五郎の別れた妻の令子役に、いしだあゆみ、令子の妹で富良野に来る雪子に竹下景子、草太兄ちゃんの岩城滉一など「陽」の役者をまわりに配した。
収録が始まった。1年半は長丁場。富良野青年会議所(JC)の人たちがいる麓郷を中心にロケを開始。北海道ではフジテレビはほとんど無名で信用がなく、ツケがきかず、宿も食事も車もすべて現金払い。番組スタッフだけで60~70人。出演者にも付き人があいる。長い付き合いのプロデユーサーの中村敏夫さんが分厚い一万円札を携えてやってくる。折り紙つきの「陽」の敏夫さんが目に見えてやせてきて、ついに心因性膵臓炎で入院。予算超過のストレスだった。結果、製作費は15億円に達して当初予算の2倍を超えた。 (日本経済新聞「私の履歴書・倉本 聡24回目を引用)
|Posted 2015.8.27|