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ウクライナ危機を聞く(東大名誉教授・北岡伸一氏)

主要国は1920年、第一次世界大戦の反省に立ち国際連盟を発足差させた。1928年には不戦条約で、戦争そのものを違法化した。だが、1929年に始まった大恐慌で、民主主義の米英仏は弱体化し、逆にスターリンのソ連は著しく台頭していた。

そのはざまで、日本とドイツの脆弱な民衆主義は軍部やナチスにおされて弱体化していた。日本が1931年に起こした満州事変に米英も国際連盟も有効な手を打てず、世界は第二次世界大戦に歩んでしまった。

ロシアによるクリミア併合などでも西側は有効な手を打てなかった。2021年のアフガニスタンの政権崩壊で米国の威信は失墜した。国際秩序の弱体化を見てロシアが大胆な行動にでた。ウクライナ危機の教訓として

第一に軍事力のバランスに注意して、周辺国の脅威に備え、準備を怠らないことだ。第二次大戦前、英仏はドイツの戦車や航空戦力に十分対応できなった。米国も日本が真珠湾を奇襲する力をつけていることに気がつかなかった。

第二に、自由主義諸国の連帯を強めておくことだ。ドイツがウクライナへの武器供与に踏み切ったこと、欧米諸国で北大西洋条約機構(NATO)入りの機運が高まったことは極めて重要である。日本も連帯の一翼を担うべきだ。

第三に、国連や国際法も重要だ。ロシアが本当にの無差別攻撃に踏み切れないのは、国際法が一定程度、機能しているからだ。ロシアは1991年に解体したソ連を継承して安保理事常任理事国になったが、国連憲章ではこの変更が反映しておらず、今も「ソビエト社会主義共和連邦」が常任理事国になっている。

この点などを追求し、ロシアを常任理事国から外す決議を総会で採択してはどうか。実効性はともかく相当な圧力になる。

中国はロシアの行為を「侵略」と認めず、あいまいな態度を続けている。国連で多数をロシア非難に結集することは、中国への強いけん制となる。中国は従来、途上国のリーダーと自称してきたが、多くの途上国は先の国連総会でロシア非難決議に賛成した。このままでは、中国は世界のリーダーになれないだろう。(聞き手・日経新聞秋田裕之の記事の一部を転載した)

 |Posted 2022.3.24|