北方四島は日本領土 2022.11.04産経新聞
日本と旧ソ連が国交を回復した1956(昭和31)年の日ソ共同宣言から19日で66年となった。日本政府は「平和条約締結後に歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の引き渡し」をうたった宣言を基礎に外交努力を重ねてきたが、平和条約交渉が難航する中でウクライナ戦争が勃発。その後、ロシアが交渉中断を一方的に通告し、北方領土問題解決を含む平和条約締結への道筋は描けなくなっている。
「領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持していく」。松野博一官房長官は18日の記者会見でこう述べた。「ウクライナ情勢によって日露関係は厳しい状況ではある」とも語り、交渉再開に向けた厳しい現状も認めた。
ロシア外務省は今年3月、日本が欧米諸国と歩調を合わせて対露制裁に踏み切ったことを受け、平和条約交渉を凍結するとの声明を出した。さらに、北方領土の元島民の墓参などを目的としたビザなし交流の停止、北方領土での共同経済活動に関する協議からの撤退も表明した上で、「すべての責任は、反ロシア的な行動を取ることを選択した日本側にある」とした。
これに対し、岸田文雄首相は「今回の事態はすべてロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しており、日露関係に転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当だ」と反論した。以降、首相は対露制裁を段階的に強化し、長期的な日露関係の冷却化は避けられなくなった。
日ソ共同宣言の重要性が改めて確認されたのが、2018年11月のシンガポール合意だった。安倍晋三首相(当時)がプーチン大統領との間で、日ソ共同宣言に基づき交渉を加速させることで合意した。国後(くなしり)、択捉(えとろふ)の2島も含めた北方四島返還を求める立場から、2島先行返還を容認する立場への大きな転換点となった。
しかし、ロシアはその交渉の中で、日米同盟の存在が平和条約締結の障害になっていると主張。20年7月には憲法を改正し領土割譲につながる行為を原則的に禁じ、北方領土を事実上の「経済特区」に指定するなど日本の立場を無視した政策を一方的に進めてきた。安倍氏の退陣後、菅義偉、岸田両政権でもシンガポール合意を引き継ぐ考えを示したが、表立った進展はなかった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今月7日、ビデオ声明で「ロシアが不法占拠している北方領土を含む、日本の主権と領土の一体性を支持する」と述べ、対応する国内文書に署名したと明らかにした。ウクライナ議会も同じ内容の決議をし、領土問題をめぐり日本や国際社会と連携する方針を示した。
ロシアは現在、ウクライナ全土にミサイル攻撃を行うなど終戦への出口は見えない状況だ。外務省幹部は「日ソ共同宣言は国際約束で、法的には百パーセント有効だ」と語る。一方で「隣国を侵略して領土を広げようとしているロシアと交渉を通じて領土問題解決を目指すのにふさわしいタイミングではない」とも付け加える。
政府高官は「将来のことを論じる根拠は何もない。ロシアが今後どうなるかを踏まえながら考えることになる」と語る。ただ、日露交渉を再開するにはウクライナ戦争の終結か、プーチン氏の失脚などによるレジームチェンジ(体制転換)が起きない限り困難との見方が政府内では大勢だ。政府には「プーチン後」を見据えた戦略を描くことも求められそうだ。(広池慶一)
|Posted 2022.11.8|