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安倍元総理首相死去から一年(2023.07.08産経抄)

安倍晋三元首相が自民党幹事長代理当時の平成16年10月、月刊「松下村塾」という雑誌に応援メッセージを寄せていたと最近、知った。安倍氏はその中で平成3年5月に死去した父、晋太郎元外相について記している。「67歳で亡くなった父には67歳の四季があったように思います」

松下村塾で人材を育み、明治維新の原動力となった吉田松陰が処刑前日に書いた「遺書」、『留魂録』の言葉を引いたものだった。安倍氏は、父は生涯を全うしたと説き、こう続けた。「一番近くにいた自分が志を見て、受けついで、またそれを伝えていくことで、安倍晋太郎の生涯は喜べる生涯だったのではないでしょうか」

昨年7月12日の安倍氏の葬儀では、妻の昭恵さんがやはり『留魂録』を引用してあいさつをした。「政治家としてやり残したことは、たくさんあったと思うが、本人なりの春夏秋冬を過ごして、最後の冬を迎えた。種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」

安倍氏は事あるごとに、『留魂録』の言葉を昭恵さんに話して聞かせていたという。松陰は弟子たちに訴えている。「われを哀(かな)しむなかれ。われを哀しむはわれを知るに如(し)かず。われを知るとは、わが志を知り、それに帆を張り、大きく進めてゆくことなり」

ジャーナリストの徳富蘇峰は著書『吉田松陰』で、こんな松陰像を描く。「彼が一生は、教唆者に非(あら)ず、率先者なり。夢想者に非ず、実行者なり」「彼の生涯は血ある国民的詩歌(しいか)なり。彼は空言を以(もっ)て教えず、活動を以て教えたり」。松陰と安倍氏が重なって映る。

安倍氏の一周忌を迎え、改めて願う。安倍氏の志を受け継ぐ種たちがそれぞれの形で咲き誇り、実を結ぶ収穫の日が早からんことを。

 |Posted 2023.7.8|