台湾有事のリアリティ(電気新聞ウエーブ・時評から:2021.06.18)
■最初にこのホームページ管理者は、日本の大きなメディアは報道されないことが多すぎる気がすると感じている。2021年6月18日の電気新聞に小川和久(おがわ・かずひさ)氏=少年自衛官が投稿した「台湾有事のリアリティ」の内容を載せることにした。静岡県立大学特任教授、国家安全保障に関する鑑定機能強化会議議員74歳■
中国の軍事力増強を前に、日本国民の間で台湾有事への危機感が高まっている。今回はリアリティの面から台湾有事をを考えてみたい。一般的に思い浮かべるのは、ある日、中国の大軍が陸海空から台湾に襲いかかり、占領してしまう図である。そうした想像をかき立て、威嚇するために、中国側も武力統一の意思を隠していない。しかし、そのパターンでは武力統一は成り立たない。
台湾軍の反撃、米軍の来援をはねのけて台湾に上陸し、占領するためには、中国側はおよそ1,000万人陸軍を投入しなければならない。米台軍の反撃で半数は海の藻くずとなるからだ。大規模な上陸作戦を行う場合、私が習った定員13,000人、車両3,000両の旧ソ連軍の自動車化狙撃師団(機械化狙撃師団)の場合、一週間の燃料、弾薬、食料とともに海上輸送するには、一個師団だけで50万トンの船腹量が必要というのは、今日でも世界各国に共通する試算表である。100万人だと5,000万トンが必要となる。
中国式に詰め込んだとしても、3,000万トン以上は必要だろう。そんな海上輸送力は中国にはない。米国国防総省の年次報告書も、海兵隊を使った中国の強襲上陸能力は約一万人としている。しかも、中国は台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる航空戦力も十分ではない。そうなると、リアリティを持つのは台湾国内に騒乱状態を引き起こし、それに乗じてかいらい政権を樹立する方法だが、その一つ福建省に1,600基以上展開する短距離弾道ミサイルなどによって台湾の政治、経済、軍事の重要目標を攻撃し、その混乱に乗じるパターンは米国との全面戦争の危機が大きく、中国が採用するとは思われない。
残る選択肢はハイブリッド作戦である。2014年のクリミヤ半島では所属不明の武装集団が士気の低いウクライナ軍を駆逐し、ロシア寄りの住民の支持の下、ロシア併合が無血で実現された。ハイブリッド作戦は、軍事力を含む「何でもあり」の戦法で、人民解放軍の喬良、王湖穂両大佐が1999年に出版した『超減戦』に起源を持つとされる、政治、経済、宗教、心理、文化、思想などの社会を構成する全ての要素を兵器化する考えである。
中国はこれを2003年、輿論戦、法律戦、心理戦の三戦として『人民解放軍政治工作条例』に採用した。「砲煙の上がらない戦争」の別名通り、超限戦と古代中国の戦略の書『孫子』を融合し、戦火を交えず勝利しようとする高等戦術である。米軍は2008年にハイブリッド脅威と位置づけた。このように、台湾や日本の尖閣諸島などはハイブリッド戦や三戦の渦中にあると考えてよい。それを抑止するには、次の手だてを着実に実行するほかにない。
まず、ハイブリッド戦と思われるあらゆる兆候について台湾は米国と日本に通報するシステムを構築する。次いで、日米両国は「台湾有事は日本有事となる」との認識を明らかにし、台湾からの通報があり次第、国境付近に軍事力を展開する体制を整える。そして、日米台の連携を世界に公表するのである。これによって、中国にハイブリッド戦をためらわせる抑止効果は一気に高まる。中国の抗議にたじろいてはならない。
個別ページへ |Posted 2021.6.19|